建築プロジェクトは、その規模の大きさ、関わる人々の多様さ、そして工期の長さから、極めて複雑なマネジメントを要します。設計者、施工管理者、専門工事業者、職人、そして施主や近隣住民…多くのステークホルダーとの連携が不可欠であり、その中心でプロジェクトを成功に導くリーダーの役割は、まさに現場の司令塔として極めて重要です。
加えて、建築業界は今、人手不足や就業者の高齢化、働き方改革への対応、そして建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進といった、大きな変化と課題に直面しています。このような状況下で、従来の経験や勘だけに頼るリーダーシップでは、変化に対応しきれず、生産性の向上や魅力ある職場づくりを実現することは困難です。だからこそ、新しい知識やスキル、そして変化に対応できる柔軟な思考を持つ次世代リーダーを育成することが、業界全体の持続的な発展のために急務となっています。
建築物の品質と安全は、人命にも関わる最重要事項です。リーダー自身が、図面を読み解き、施工方法や関連法規を理解し、適切な技術的判断を下せる知識を持つことは、プロジェクトを安全かつスムーズに進めるための大前提です。これにより、部下や協力会社からの提案を的確に評価し、潜在的な欠陥や事故のリスクを未然に防ぐことができます。「神は細部に宿る」と言われるように、細部へのこだわりが最終的な品質を左右します。
天候不順、資材の納期遅れ、予期せぬ地盤の問題、近隣からのクレーム、そして労働災害…建設現場には常に様々なリスクが潜んでいます。優秀なリーダーは、起こりうる複数のリスク(特に安全、品質、工期、コスト、環境:QCDSE)を事前に想定し、その影響を最小限に抑えるための対策を講じることができます。万が一トラブルが発生した場合でも、冷静に状況を分析し、迅速かつ的確な対応を取る危機管理能力が求められます。
建築プロジェクトでは、日々、大小様々な判断が求められます。計画通りに進まないことは日常茶飯事。「この工法でいくか」「追加コストを認めるか」「人員配置を変更するか」…判断を迷っている間にも時間とコストは刻々と過ぎていきます。現場の状況、QCDSEのバランス、関係者の意見などを総合的に考慮し、最善と考えられる策をスピーディーに決断し、その結果に責任を持つ力。これがリーダーの腕の見せ所です。
これらのスキルは、日々の厳しい現場経験の中で磨かれる部分も大きいですが、リーダー育成研修などを通じて、原理原則や体系的な知識を学び、自身の経験を客観的に振り返ることも、成長を加速させる上で非常に有効です。
残念ながら、チームの力を削ぎ、プロジェクトを停滞させてしまうリーダーも存在します。建築業界で「あの人の下では働きたくない」と思われがちなリーダーには、以下のような特徴が見られます。
自ら判断・決断せず、指示を出すだけで現場の苦労を理解しようとしない。部下や協力会社に責任を押し付けがち。
部下を信頼せず、過度に細かい点にまで口を出し、全体の進捗管理や重要判断がおろそかになる。若手の成長の機会を奪う。
自分の経験や価値観を絶対視し、部下や職人の意見に耳を傾けない。現場の士気を著しく低下させ、報告・連絡・相談が滞る原因に。
安全管理や品質確保よりも工期やコストを優先したり、新しい技術や工法を学ぼうとせず、旧来のやり方に固執したりする。事故や不具合、生産性の低下を招く。
建設業の中堅ゼネコンであるC社(社員700名規模)では、若手社員や協力会社とのコミュニケーション不全、現場中核社員の伝える力・関わる力の不足、主体的に問題を捉え解決できる人材の不足という課題を抱えていました。そこで、次世代の現場リーダー育成を目的に、10か月・17日間の長期体感型「次世代リーダー育成プログラム」を導入しました。
本プログラムは、「気づき」と「行動変容」を重視し、心理学・コーチング・5S・問題解決ゲームなど多面的な学習と実践を通してリーダーとしての基盤を養成。具体的には、マインドマップや記憶術による情報整理、新5S・なぜなぜ分析での現場課題対応力強化、コーチング・行動心理での関係性構築力向上、問題解決ゲームや現場実習を通じた行動力強化など、学習・対話・実践のサイクルを徹底しました。
さらに、役員・幹部が出席する成果発表会を設け、各参加者の成長と現場成果を可視化。参加者は全25名で、5名1組のグループ活動を通じて、対話・内省・相互支援の文化も醸成されました。
その結果、現場での指示の伝え方や関わり方の質が向上し、混乱が減少。問題解決の一貫性とスピードが向上し、業務効率が改善。また、心理的安全性が高まり、協力会社も含めた現場の雰囲気が良化しました。横のつながりや支援し合う文化が生まれたことも大きな成果です。
最終日の修了式では、「仲間との関係性が財産になった」との声が多数あり、学びの定着度の高さが確認されました。今後は、他部門や他職層にも展開予定であり、全社的な現場力の底上げが期待されます。
ナレッジリーンの特徴は、自ら問題を発見し解決できる次世代リーダーを育成する実践型プログラム。
業務プロセス改善と人材マネジメントの両面からスキルを磨き、変革を牽引する若手リーダーの育成を支援します。
ある建設関連企業では、次世代リーダー候補を社外の研修プログラムに参加させたところ、参加者からポジティブな反応が多く得られました。研修では、リーダーシップの原理原則や他社の事例を学ぶ中で、自身の普段の行動やチーム運営について多くの「気づき」があったようです。特に、異業種の参加者とのディスカッションは、普段の社内では得られない刺激となり、視野を広げる良い機会となった模様。研修を通じて、「自分のチーム運営における具体的な改善点が見えた」「もっと部下の意見を聞こうと思った」といった声が上がり、今後の行動変容への意欲が高まっているとのことです。社外の「アウェイ」な環境だからこそ、素直に学びを受け入れやすいという側面もあるのかもしれません。
社員数8,000人超の建設業の企業における事例です。同社では、次世代女性リーダーの育成を行う必要があったことから、技術系出身の女性管理職経験を持つ講師によるリーダー塾を導入。こちらは、女性の特性に合わせたリーダー育成プログラムとなっており、ニーズに合致したことが導入の決め手となっていました。
受講の対象者は少人数だったため、研修ごとに個別面談を必須とし、メンタルフォローとしてのサポートも追加してプロジェクトをスタート。約1年という長いプロジェクトだったものの、実践課題があったため中だるみせずに進められました。また、リーダーになる意志を持っていなかった受講者が、研修と面談を繰り返す中で少しずつ意識が変わり、リーダーシップを発揮して管理職を目指すようになったことから、意識づけの重要性について実感しています。
新入社員の採用と定着を成功に導く建設業界の事例を紹介します。
採用にあたって他社では広く一般的な採用広告を出稿するのに対し、こちらの企業では特定の人材をターゲットにしてマーケティングを実施することが特徴です。
また、社内大学を通じて体系的な教育プログラムを実施し、業界のトレンドを反映した内容を盛り込んでいる点が特徴。さらに、リーダーシップやマネジメントに特化した研修コースも設けています。加えて、3人体制の現場OJTを実施し、複数の指導者から多角的に学べる体制の構築によって、実践的なスキル習得を促進しています。
また、内定後は毎月のフォローを実施することによって内定辞退率0を目指すなど、入社前からの関係構築に注力。さらに、社内日報システムや現場資料共有システムを活用し、社員同士が円滑に情報共有ができる環境を構築しています。
建築業界で活躍できる次世代リーダーを育成するには、現場での実践と、体系的な学びを組み合わせることが効果的です。
建築業界のリーダー育成において、実際の現場経験は何物にも代えがたい学びの場です。先輩リーダーの指導の下、施工管理、安全管理、品質管理、工程管理、原価管理、協力会社との折衝などを実践的に経験することで、知識が知恵となり、応用力が身につきます。
技術的な指導だけでなく、キャリアの悩みや人間関係の相談など、若手リーダー候補が抱える様々な課題に対して、経験豊富な先輩社員が伴走者としてサポートします。特に、多様な職人さんたちとの円滑な関係構築のコツなどは、メンターからのアドバイスが役立つ場面も多いでしょう。
現場だけでは得にくい、リーダーシップ理論、組織マネジメント、最新の建設技術動向、関連法規、コンプライアンス、交渉術などを体系的に学ぶ機会を提供します。また、組織全体を俯瞰する視点や、業界の変化に対応するための戦略的思考力を養う上でも重要です。
大切なのは、これらの育成方法を個々の候補者のレベルや課題に合わせて組み合わせ、長期的な視点で継続的に支援していくことです。
建築業界における次世代リーダー育成は、個々のプロジェクトの成功はもちろん、企業の持続的な成長、ひいては業界全体の未来にとって不可欠な投資です。これからのリーダーには、確かな技術力と現場感覚を土台としつつ、変化を恐れない柔軟性、多様な人々をまとめるコミュニケーション力、そして先を見通す戦略的な視点が求められます。
ダメなリーダーの特徴を反面教師としつつ、OJT、メンター制度、研修などを効果的に活用し、次世代を担うリーダーたちが自信を持って活躍できる環境を整えていくことが、今、強く求められています。
当メディアでは次世代リーダー研修を検討している企業に向けて、業界別におすすめの研修会社を紹介しています。
製造・建設
業界なら
製造業や建設業など現場リーダーに特化し、座学にプラスして現場での実践型トレーニングを行い現場力を鍛える研修を行う。問題検出力、分析力、行動力を鍛え、現場で起きた問題に対して迅速な解決ができる人材を育成できます。
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変化の時代に求められる自律的な中堅社員開発研修を行い、変化の激しいIT業界において自ら進んで問題を発見できる中核社員を育成。IT業界特有のプロジェクト型チーム運営や成果志向に対応した研修内容も展開できます。
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金融業界なら
デジタル化が進む金融業界において管理能力と変革能力にプラスして、リスクマネジメント課題への対応力を織り交ぜた研修を行う。想定されるリスクを洗い出し、万が一発生した際も影響を最小限に抑えられるリーダーを育成します。